丸谷才一氏の『思考のレッスン』を読んでいたら、活字の組み方と理解度について語っている部分があった。興味深いので抜粋。 ー(略)丸谷さんの読書法は尋常ならざるところがあって(笑)、いつも驚いたり感心したりですが、その一つは、丸谷さんが同じ本をいくつもの違う版で読んでいることです。以前、丸谷さんから、日本の古典を読むとき、同じ本でも版が違うとひどく読み難いとうかがったことがありました。 丸谷 たとえば『古今』を読むなら、窪田空穂の本で読むのが僕は一番好きです。岩波の「日本古典大系」版の『古今』は、どうも読み難い。活字の組み方も悪いし、注釈もなんだか事務的な感じで、簡単すぎてよくわからない。それにくらべると窪田空穂の注は、心がこもっているようでいいなあと思って読んでいました。 同じ岩波でも、「新日本古典文学大系」の小島憲之・新井栄蔵両氏の注はいいですね。組み方もいいような気がします。 (丸谷才一